建設業で使われるVEとVAについてご存知でしょうか?
近年、VEとVAは建設業や製造業などにおいても欠かせない考え方の一つとされています。
生産性向上や労働力不足の解決に繋がるとされ、注目されている考え方です。
本記事では、建設業におけるVEの概要やVAとの違い、効果や提案方法などをご紹介します。
VEとは
VEとは「Value Engineering」の略称で、「コストを抑えながらサービスと製品の価値を高める」考え方を指します。
日本では受注側が異なる提案をすることで、価値の向上とコストダウンを両方叶えることを指すことが多いです。
例えば、図面や仕様書の変更、発注先の変更などを行い、品質を維持しつつもコストを抑える組織的な活動を行います。
VAとの違い
VAは「Value Analysis」の略称で、既存の製品に対する変更を指します。
VEが新製品を開発する際の考え方、VAは既存の製品に対する考え方に分けられます。
VAでは、既存の製品の品質を維持しつつコストを抑える方法を提案する考え方です。
例えば、原料の調達方法や作業の効率化などが挙げられます。
対象は異なりますが、目的が同じであるためVA/VE提案と表記されることもあります。
出典:東京都財務局「建築工事におけるVEガイドライン(ダイジェスト版)」
VEの効果
建設業におけるVEの検討は、具体的にどのような効果が期待できるのでしょうか。
ここでは、VEの効果について解説します。
必要な品質の保持
建設業界は、さまざまなニーズに応える必要があります。
VE提案では、品質とコストのどちらの面からも優れたものを提案します。
建築物の価値や品質についてもニーズを満たすことを前提としているため、
品質を保持しつつもコストを抑えた建設工事が提案できるのです。
顧客満足度向上
VEは、品質はそのままにコストを抑えた工事を実現するため、顧客満足度の向上も期待できます。
従来の建設工事の場合、建設会社は自社の技術をそのまま利用した工法を提案しても
メリットはほぼありませんでした。
しかし、VEであれば自社の技術を活かしつつもコストを低減した施工方法を提案することができます。
そのため、顧客満足度向上と同時に建設会社にとっても受注機会が増えるといったメリットがあります。
出典:東京都財務局「建築工事におけるVEガイドライン(ダイジェスト版)」
口コミやSNSにて良い評判が出回る
VE提案を行うと、品質を向上させながらコストダウンが実現します。
発注者側にはメリットは大きいものの、建設会社側からすると
客一人当たりの利益が減少する恐れがあります。
そんな中、現代では口コミやSNSで利用者のレビューが広まっていきます。
消費者の中には、口コミやSNSでの評判をもとに利用する会社を検討する人も増えているのです。
VE提案によって、品質向上とコスト削減の両方を実現できれば、
より良い評判がインターネット上に蓄積され、消費者から依頼を受ける可能性が高まります。
このように、現代では建設会社を選ぶ際に、口コミが大きな判断材料となっています。
そのため、多少客単価を犠牲にしてでも、口コミによって受注機会が増加するメリットは大きいと言えるでしょう。
VEの提案方法

VEの提案はVEの目的を確認し、対象を理解することから始めます。
ここでは、VEの基本的な提案方法についてご紹介します。
情報収集
事前に対象を決定し、対象に関係する技術やコスト、必要な品質などの情報収集を行います。
また、顧客からの要求や競合他社の情報も集めておきましょう。
さらに、法的な制約も確認しておく必要があります。
定義決めと整理
対象となる構造物の機能を定義し、機能と情報の両面から整理を行います。
構造物に求められる機能にはさまざまなものがあるため、
解決に必要な問題を洗い出し目標設定を行う必要があります。
さらに、定義した機能と情報をセット化して整理を行います。
分析
機能と情報を分析することで、実現可能かどうかを判断します。
また、コスト算出を行い、目標コストを決定します。
分析によって実現可能であれば残し、優先度をつけていきましょう。
提案
分析した結果をもとに顧客や発注者に提案を行います。
提案は、VE提案書を用います。
公共工事や入札制の工事の場合、発注者側から書式が提示されていることが多いため
合わせて確認しておきましょう。
従来の工法からの改善点やコストの根拠、品質の保持に関する保証などを明確にし、
相手に分かりやすく説明します。
出典:東京都財務局「建築工事におけるVEガイドライン(ダイジェスト版)」
VEのポイント
建設プロジェクトでのVEはコスト削減を目的に行われることが多いですが、
ポイントをおさえて品質とのバランスを上手くとることで、
機能やデザインを損なわずに効果の大きいVEを実現することができます。
より良いVE提案が出来れば発注者側だけでなく、建設会社側にもメリットがあります。
しかし、VE提案の効果を最大化するためには、いくつかのポイントを抑えておく必要があります。
ランニングコストを考慮して、VE提案を提案する
VE提案を行うならば、品質を下げない範囲でコスト削減の提案を考えなければいけません。
そこで、工事費や購入費用など短期的なイニシャルコストだけを考慮するのではなく、
毎月の水道光熱費や定期的なメンテナンス費用などの長期的なランニングコストも考慮し、
VE提案を行いましょう。
コスト削減を実現しようとした時、どうしてもイニシャルコストばかりに着目してしまいがちです。
また、発注者側もイニシャルコストの低さばかりに気を取られてしまう傾向にあります。
しかし、VE提案を行うのならば、短期的・長期的の両面で考えながら、
様々な観点でメリットデメリットを比較して、適切な案を見つけていく必要があるでしょう。
専門知識を有したプロと協力しよう
イニシャルコストだけでなくランニングコストにも目を向ける必要があるとして、
それらを適切に考慮するのは非常に困難です。
多くの現場で経験を積み専門的な知識に秀でた人ならば、適切な提案も可能かもしれませんが、
なかなか実践するのは難しいかもしれません。
それならば、設計者や施工者といった人だけで考えるのではなく、
「スケジュール管理」「品質管理」「コスト管理」などを一手に請け負うコンストラクションマネジメント会社と手を組むのも良いでしょう。
多くの案件を請け負った経験のある、専門性の高いコンストラクションマネジメント会社ならば、
品質を維持したままコスト削減を実現する案を一緒に考案してくれるかもしれません。
VEの注意点
うまくVE提案を行えば、発注者側、建設会社側の双方にメリットがあります。
しかし、いくつかの注意点を見逃してしまうと、効果的なVE提案を行うことも実現することも出来ません。
紹介する注意点を把握して、より良いVE提案を考えていきましょう。
初期段階でVE提案を行おう
より大きなコスト削減を目指すのならば、建設工事の初期段階でVE提案を行う必要があります。
平面計画や構造計画といった、基本設計部分は設計工事の初期の方で決定してしまい、
その後の変更は難しくなります。
しかし、これらは全体の工事費の中でも大きな割合を占めており、全体の約80%にも相当します。
もちろん細かな意匠計画や設備計画などは後から変更できる部分もあります。
とはいえ、この部分でコスト削減を目指しても、全体の工事費に与える影響は大きくありません。
こうしたことから、大きなコスト削減を実現させる場合、初期段階でVE提案を考えなければいけません。
実際に作業している人の声を聴く
発注者の要望を実現したうえで、コストを削減を目指すのならば、
使用する素材を変更することもあるでしょう。
しかし、素材を変更したことで作業効率自体が悪化する恐れもあります。
素材の変更によって一部分のコストを削減できたとしても、
工事の作業効率が悪化して人件費が上がってしまっては意味がありません。
そのため、使用する素材を見直すのであれば、現場で作業する人の声を取り入れるのも重要です。
特に、工事にかかる手間や素材独自の癖などは、現場で従事する職人たちの方が精通していることも少なくありません。
多くの知恵を結集させることが、理想的なVE提案を考案する一手とも言えるでしょう。
VEについて理解しておこう
建設業におけるVEは発注者と受注者どちらにもメリットのある考え方です。
従来の工事よりもコストが抑えられる可能性がありますが、
品質の保証がされなければ顧客や発注者は納得できないでしょう。
そのため、機能の改善やコスト削減の根拠、新製品の開発をした場合は
相手に分かりやすいように説明や提案をすることが大切です。